40代に入ってから、ピンクリップは“似合わない気がする色”の代表でした。若い頃の写真の中でだけキラキラしている色——そんな思い込みが強かったんです。仕事も家のことも優先して、自分のメイクは「無難」に落ち着かせるのが習慣に。気づけばポーチの中はベージュとブラウンばかり。鏡の前で「疲れて見えるのは仕方ない」と思い込むのが、半分癖になっていました。
転機は同窓会の前日。久しぶりに会う友人たちに「元気そうだね」と言われたいのに、どうも血色が足りない。ドラッグストアでふらっと手に取ったのが、くすみローズ寄りのピンク。店員さんに「青みが少し入った“落ち着いたピンク”は、肌の透明感を引き上げますよ」と言われ、半信半疑で試し塗り。鏡の中で、頬の影がふっと和らいで、白目が少し澄んで見えた気がしました。派手じゃないのに、顔全体が『起動する』感じ。胸の奥が小さく弾みました。
当日、そのピンクを丁寧に直塗りして、中心だけ重ね塗り。会場に入った瞬間、ひとりの友達が「その口紅、すごくいい。雰囲気が明るくなってる」と言ってくれました。大げさかもしれないけれど、ピンクは“若作りの象徴”じゃなくて、“私の体温を表に連れ出す色”なんだと、その夜に思い直しました。
そこから少しずつ、シーンに合わせてピンクを使い分けるコツを覚えました。平日の朝は、素の唇の色が少し透けるシアーなピンク。マスクを外す瞬間にツヤが残って、疲れ顔の予防線になる。打ち合わせのある日は、彩度を落としたダスティピンクに。落ち着きは保ちながら、表情だけは“やる気の明るさ”をキープできる。週末に家族で外食するときは、少し青みのあるローズピンクを。写真を撮ると、肌のくすみまで整ったように写るのが密かな楽しみになりました。